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闘病する人の「生きること」を捉える(その1) ― ICF(国際生活機能分類)を活用して ―

こんにちは、ジョニージョニーです。今回は、闘病する人の「生きること」を捉える、というテーマです。

人が生きることの全体像」を把握するための「共通言語」として、『ICF国際生活機能分類』というものがあります。主に支援者側が、要支援者側(患者・障害者・高齢者など)を理解するために用いるツールです。

当記事では、そのICFの一般的な使い方を転じて、闘病する側が自身の現状(問題・課題)や目標を把握するためのツールとしての活用を考えます。それでは。

 

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  もくじ

 

 ICF国際生活機能分類)とは

1)ICF国際生活機能分類は、2001年5月にWHO総会で採択されました。ICFの前身であるICIDH(国際障害分類、1980)が「疾病の帰結(結果)に関する分類」であったのに対し、ICFは「健康の構成要素に関する分類」であり、新しい健康観を提起するものとなりました。

生活機能上の問題は誰にでも起こりうるものなので、ICFは特定の人々のためのものではなく、「全ての人に関する分類」です。

 

2)ICFの目的を一言でいえば、「”生きることの全体像”を示す”共通言語”」です。生きることの全体像を示す「生活機能モデル」を共通の考え方として、さまざまな専門分野や異なった立場の人々の間の共通理解に役立つことを目指しています。

具体的には、次のような目的に用いられます。これらは相互に関連しています。

■ 健康に関する状況、健康に影響する因子を深く理解するため

■ 健康に関する共通言語の確立で、様々な関係者間のコミュニケーションを改善

■ 国、専門分野、サービス分野、立場、時機などの違いを超えたデータの比較

 

3)ICFは本来は健康に関する分類ですが、健康分野以外にも、また分類として以外にも、保険、社会保障、労働、教育、経済、社会政策、立法、環境整備のような様々な領域でも用いられるようになっています。

■ 個々人の生活機能向上をはかるためのサービス提供の上での活用: ICF個々の人の問題・課題・目標を、個別性・個性を尊重して構造的に把握することを助けます。既に様々な実際のサービス分野で活用されています。

■ システム構築の上での活用:ICFは、様々なサービス分野、また社会的参加促進や、社会的支援などのシステムの構築にも用いられています。

 

ICFの中核をなす生活機能モデルとは

 下記に示した図がICFの生活機能モデル図です。参照しながら、お読みください。

ICFは、大きく分けて、「健康状態」「生活機能」「背景因子」の3つに分類されます。そして「生活機能」は、さらに「心身機能・構造」「活動」「参加」の3つに分けられます。また「背景因子」は、「環境因子」と「個人因子」とに分けられます。

これらは生活機能モデルと呼ばれ、「人の生きることの全体像」を明らかにするためのマップのような枠組みです。

モデル図を見ると、すべての要素が双方向の矢印で結ばれています。これは「すべてがすべてと影響し合う」相互作用モデルであることを表しています。

 

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生活機能モデルをさらに詳しく

1)要素間の影響 (相互作用モデル)

 すべての要素が双方向の矢印で結ばれています。こうした影響の与え合いの内容と程度は、人によりさまざまであり、マイナスの影響もあれば、プラスの影響もあります。大事な点は、どの要素がどの要素にどのように影響しているのか、を具体的に捉えることです。また注意したいポイントは、他の要素からの影響ですべてが決まってしまうのではなく、各要素には「相対的独立性」があるという点です。

※「相対的独立性」とは… お互いに影響は与え合うけれども、それぞれの要素には独自性があって、他からの影響ですべて決まってしまうことはない、ということです。

2)各要素について①[生活機能]

■ 心身機能・構造(生命レベル)… 心身機能とは、例えば手足の動き、精神の働き、視覚や聴覚などの機能のことです。構造とは、手足の一部とか、心臓の弁など、体の各部分のことです。

■ 活動(生活レベル)… 生活行為。すなわち生活上の目的を持ち、一連の動作からなる、具体的な行為のことです。例えば、歩いたり、顔を洗ったり、食事をしたり、風呂に入ったり、トイレに行ったり、服を着たり、という日常生活行為のことです。

またその他に、家事行為(食事を作る、掃除をする)、社会生活上の行為(職場で事務をする、機械を扱う、電車に乗るなど)、余暇活動(趣味、スポーツなど)も入ります。

※「できる活動(能力)」と「している活動(実行状況)」とに分けるというのが重要なポイントです。

※プラスの側面、特に隠れたプラスの側面を見つけ出し、引出し、発展させることが重要です。

■ 参加(人生レベル)… 人生のさまざまな状況に関わり、そこで役割を果たすことです。単に社会参加というだけでなく、主婦としての役割、職場での役割、地域での役割、スポーツへの参加など、さまざまなものが含まれます。

3)各要素について②[背景因子・健康状態]

■ 環境因子… 物的な環境を初めとして、人的な環境、社会意識としての環境、制度的な環境というように、たいへん広く環境を捉えています。

物的な環境とは、建築・道路・交通機関の他、福祉用具(杖、車いす)など。

人的な環境とは、家族・友人・同僚など。

社会意識としての環境とは、社会が障害のある人や高齢者をどう見るか、どう扱うかなど。

制度的な環境とは、医療・福祉・就労などに関するサービス・制度・政策。

 

■ 個人因子… その人固有の特徴のことです。具体的には、年齢・性別・民族・生活歴(職業、学歴、家族歴など)・価値観・ライフスタイル・コーピングストラテジー(困難に対処し解決する方法)などです。

 

■ 健康状態… ICFのいう「健康状態」とは、病気けがその他の異常だけでなく、妊娠・高齢・ストレス状態、その他いろいろなものを含む幅広い概念です。

※「健康状態」は、「生活機能」の3つのレベルに大きな影響を及ぼします。「心身機能・構造」に大きな影響を及ぼすことはもとより、「活動」や「参加」にも直接影響を及ぼします。例えば、病気の時は安静第一とするあまり、軽い病気でも「活動」の量を低下させてしまうなど。

 

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生活機能モデルの活用のキホン

 自分の現状(問題・課題)や目標を捉えるためのICF活用の仕方を考えます。

1)「活動」と「参加」では

入門編として先ず始めは、「活動」と「参加」のところからスタートです。「活動」は「参加」の具体像ですので、大方同時に見ていくようになります。「活動」と「参加」を見る際は、「できる活動」と「している活動(実際に実行)」の差を捉えましょう。また、「活動」と「参加」の差にも注目しましょう

☆チェックする項目①〈活動・参加共用〉… セルフケア(飲食、更衣、入浴など)、家庭生活、対人関係、教育、仕事、経済、社会生活、コミュニケーション、運動、移動

☆チェックする項目②〈活動のみ〉… 学習と知識の応用(読み書き、計算、思考、技能習得、問題解決、意思決定など)、課題の遂行、日課の実行、ストレスへの対処

2)「健康状態」と「環境因子」と「個人因子」では

次に、「活動」と「参加」に、「健康状態」や「環境因子」そして「個人因子」がどのように影響しているかを見ていきます。「環境因子」についてはプラス(促進因子としての)の影響、マイナス(阻害因子としての)の影響を明確にしていきます。

☆チェックする項目〈環境因子〉… 生産品と用具(建物・道路・交通機関・支援的用具(杖・車いす)なども)、自然環境と人間がもたらした環境変化、支援と関係(家族・友人・支援者・職場の人など)、態度(社会の集団的な意識・態度)、サービス(医療・福祉・教育など)・制度・政策)

3)「心身機能・構造」は「活動・参加」との関連で

上記のように「活動」「参加」を中心に見た後、「心身機能・構造」を「活動」「参加」との関連で見ていきます。これが「心身機能・構造を生活や人生との関連で捉える」ということです。

※「構造」については、手足の切断、器官の欠損などの場合以外は対象外とします。

 

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参考事例

ひとつの事例を引用して採り上げました。ICFの枠組みの基本を理解した上で読むと、各人の活用に向け、手掛かりが得られると思います。

例えば脳卒中(健康状態)で右片麻痺(「心身機能」の低下:機能障害)があり、それによって歩行困難や仕事上の行為の困難(活動制限)が生じて復職が困難(参加制約)となる可能性があるとします。

しかし問題解決策として、麻痺の回復が不十分でも、実際の生活の場や通勤ルートでの歩行訓練、仕事上の行為の訓練などの「活動」への働きかけや、その際の杖・装具の活用(環境因子)によって、短期間でそれが可能となり(活動向上)、復職が可能となる(参加向上)ことは十分可能であり、そのような例は多いです。

この事例でいえるのは、歩行やその他の行為が困難になった直接の理由は麻痺など(「心身機能」の低下)であるが、それを直接治さなくても、「歩く」という「活動」そのものへの働きかけ(歩く練習など)、そして杖・装具という「環境因子」の活用による「活動」向上への働きかけが効果的であるということです。これは「活動」レベルの相対的独立性の活用です。

この例からいえるのは、「生活機能が低下する因果関係と解決のキーポイントは別だ」ということです。すべてではないが、そういうことが多いのです。

 

生活機能モデルを闘病する人が活用

ICFの生活モデルを大筋で理解できたなら、自分の解決したい問題、達成したい課題、あるいは自分の現状について、ICFの生活機能モデル図や各項目などを手掛かりに理解を深めましょう

理解の進んだところをそれぞれ箇条書きにまとめます。次にそれらを見直しながら、あなたの状況をひとつのストーリーとしてまとめてみましょう。その際、マイナスの影響とプラスの影響(プラスを重視する)、また各要素の相互作用を意識しましょう。

もちろん、すべてを網羅する必要はなく、考えてみたい項目について、プラス・マイナス、そして相互の影響にも注意しながら、ストーリーに組み上げていきます。そのプロセスを経る中で、現状(問題・課題)や目標(希望・実現)についての理解が深まります。

※因みに、専門職の方がこのICFを本格的に使う際は、扱うチェック項目はずっと増えて、項目ごとに評価点を付けていくことになります。専門職用のマニュアルが用いられます。

 ④ 上記の作業を進める内に、「ではこの問題をどう解決するか」「この課題をどう達成するか」という点に思い至るでしょう。その際は、各分野の専門職に尋ねてみることが大切です。

相談先は、問題や課題の内容によって、医師や理学療法士などの医療スタッフ、また制度や福祉サービスが関係するならMSWや行政の相談員。復職に関わることなら、人事やハローワークの職員などです。また、自分自身で書籍やウェブをフル活用して、新たな情報を得ることが必要な場合もあるでしょう。

 

まとめ

 ICFを理解し活用することで、先ず、病気や障害を抱える方の今ある姿を明らかにすることができます。

また、自分の現状、状態像を、主治医や医療スタッフを初めとする、自分の支援者あるいは家族や友人に、情報量豊かに理解しやすく伝えることが可能となります。

また何よりも、闘病する人がICFを活用することで自己理解が深まり、ICFを利用して得た情報をもとに、自分の欲する未来像を明確に描く手助けともなります。

 

【参考文献:上田 敏『ICFの理解と活用』きょうされん.2010】

【参考資料:独立行政法人 国立長寿医療研究センター.第3回ICFシンポジウム 生活機能分類の活用に向けて.(http://www.who-fic-japan.jp/img/event/pdf/ICF-report-0314_honbun.pdf).2021.06.06取得.】