ドラマ『思うままの世界』から得られる闘病のヒント ― 自閉症の若者たちの生きる姿から ―
こんにちは、ジョニー・ジョニーです。今回は、アメリカのテレビドラマ『思うままの世界(原題 as we see it)』から闘病のヒントを探ります。
アパートで共同生活を送るジャックとハリソンそしてヴァイオレット。彼らは自閉症の若者です。3人の症状の表れ方は三者三様ですが、3人とも人や社会との関りに問題を抱えています。
そうした彼らを導くのがライフコーチのマンディ。マンディは昼夜つきっきりで彼らをサポートしますが、それは決して容易なことではありません。
自閉症の3人が抱える問題や課題は、他の病気を抱えた人たちのそれとも重なるところがあります。例えば人間関係であったり、生活上の問題であったり。そうしたことから、この物語に闘病のヒントを探る意義を感じ、記事としました。
それでは。
ー 目次 ー
主な登場人物
【ルームメイトの3人】
ジャック (リック・グラスマン)
自閉症の青年。大手出版社でプログラミングの仕事をしています。自閉症を悟られまいとするのですが、大抵は見透かされてしまうジャック。普通になりたいという願いを常に抱えています。
ハリソン (アルバート・ルテツキ)
自閉症の青年。食欲旺盛なため極度の肥満症です。3人の中では最も社会との繋がりが乏しく、アパートに籠りがちです。経済的には恵まれていますが、対応に疲れた両親との間には隔たりも…。
ヴァイオレット (スー・アン・ピエン)
自閉症の女性。ファーストフード店で働いていて、仲のいい同僚もいます。男性を求める気持ちが強すぎて、突飛な行動に出てしまうことも。ジャックと同様、普通にあこがれているだけなのですが。
【ルームメイトのライフコーチ】
マンディ (ソシー・ベーコン)
3人のルームメイトのライフコーチ兼ヘルパー。3人が自立した生活を送れるように、外出や就労の支援に留まらず、恋愛のアプローチまでサポートします。自閉症の研究のため医学部を目指しますが、不合格に。将来の進路や恋愛など、マンディ自身も課題を抱えています。
他の登場人物
【マンディ関連の人物】
ジョエル (オマール・マスカティ)
マンディの恋人。法律を専攻する政治家志望の若者。マンディと一緒に暮らすことを願い、マンディの医学部入りを応援します。
【ヴァイオレット関連の人物】
ヴァン (クリス・パン)
ヴァイオレットの兄。妹思いの兄ですが、思うが故のすれ違いもあり、一筋縄では行きません。妹のために力を尽くしてくれるマンディには、感謝と同時に憧れの気持ちも…。
サリナ (ヴェラ・ラヴェル)
ヴァンの恋人。ヴァイオレットとも仲良くなりたいという気持ちが。しかしその優しさが、ヴァンとの仲に影を落とします。
ジュリアン (ケイシー・ミルズ)
ヴァイオレットの職場のイケメン配達業者。ヴァイオレットが一目惚れするのですが…。
ダグラス (アンドリュー・M・ダフ)
自閉症の青年。書店員。演劇クラブのメンバーで、ヴァイオレットに片思い中。
【ジャック関連の人物】
ルー (ジョー・マンテーニャ)
ジャックの父。がんを発症し、自分亡きあとのジャックの行く末を心配します。
オースティン (ロビー・クレーター)
職場の上司。ジャックの仕事は評価するものの、空気が読めず、対人リテラシーの低さに苦慮しています。
エワトミ (デレ・オグンディラン)
ジャックの父が通う病院の看護師。ナイジェリア出身。父親の病気にショックを隠せないジャックに同情。初めは優しく見守るだけでしたが、やがてジャックに好意を抱くように。
【ハリソン関連の人物】
クリス (スティーヴン・カルプ)
ハリソンの父親。家族みんなの幸せを願っています。
スー (ポーラ・マーシャル)
ハリソンの母親。息子ハリソンを愛するものの、夫との生活も大切にしたいという思いがあります。信頼するマンディに息子を任せたいと。
ニコール (アリッサ・イレルス)
ハリソンの妹。兄妹仲はいいのですが、ニコールの大学進学のため離れ離れに。
AJ (アダン・ジェームズ・カリーリョ)
ハリソンと同じアパートに住む少年。ひょんなことから10歳も年上のハリソンと仲良しに。
テレサ (アンジェラ・フォルネーロ)
AJの母親。ハリソンと親しくなるAJを心配します。
『思うままの世界』 あらすじ
2022年公開/シーズン1(エピソード1~8)/16+/アメリカ
配信:アマゾン・オリジナル
ジャック、ハリソン、ヴァイオレットの3人は自閉症の若者。アパートで共同生活を営んでいます。彼らをサポートするのがライフコーチのマンディ。自閉症の研究をしたいと医学部を目指すマンディは、彼らと同じ20代の女性です。
マンディの役割は、彼らの自立をサポートすること。個々に目標や希望を設定し、彼らと生活を共にしながら自立達成に向けて援助します。時には恋愛の指南も。マンディはこの仕事に情熱を注ぎます。
一方、医学部は不合格という結果となり、自分の将来には迷いも。恋人の計らいで医学部実習生への道も開かれますが、この仕事にかける思いの方が膨らみます。
ジャックは、大手出版社でソフトウエア開発に取り組みます。仕事に関しては高い能力を発揮するのですが、上司や同僚へのストレートすぎる発言、周囲に気配りのない態度から人間関係につまずきます。マンディとのミーティングで、仕事の継続と友達作りを目標に掲げたジャックでしたが…。
ジャックの父親ルーがガンを発症。今まで面倒を見てもらう側だったジャックが、今度は面倒を見る側へ。「父さんは僕が守るよ」と言ったものの、抗がん剤の副作用に苦しむ父親の姿に、ジャックは戸惑いを隠せません。
そんなストレスフルな日々に思わぬ出会いが。父親の通う病院の看護師エワトミです。ジャックは当初、父親の病状を訊くだけの関係でしたが、やがてエワトミはジャックのよき理解者に……そして双方に愛情が芽生えます。
ヴァイオレットはファーストフード店のスタッフ。ボーイフレンドを激しく求めるヴァイオレットは、好みの男性が来店すると、ところかまわず愛を告白します。良くも悪くも感情を抑えられません。その都度、兄のヴァンが後始末に回ります。
同じ自閉症のダグラスはヴァイオレットに片思い。それをマンディが後押ししますが、ヴァイオレットは見向きもしません。
周りの心配をよそに、とうとうヴァイオレットは出入り業者のイケメンといい仲に。ですが、結局は遊ばれてしまいます。激しく落ち込むヴァイオレットをヴァンとマンディが慰めます。
ヴァンはヴァイオレットを守ろうと、入所施設に入れようとします。しかし、ヴァイオレットは断固拒否し、「なんでじゃまものにするの!」と大泣きです。ヴァイオレットは、普通であること、自由であることを強く求めます。結局、ヴァンはヴァイオレットの願いを受けとめました。
ハリソンは重度の肥満男性。マンディの指導で減量を試みるも、その食欲は底なしです。また、強い感覚過敏から外出を苦手とするハリソン。それを克服しようとマンディと外出訓練を重ねますが、騒音に対する恐怖のため簡単にはいきません。
ふとしたきっかけから、ハリソンは10歳年下の少年AJと仲良しに。すっかり意気投合します。しかし、AJのママは猛反対です。マンディがAJのママに頼み込み、芽生えた友情をつなぎ留めました。
ハリソンはマンディの「大好きよ!」という言葉を、自分への恋のアピールと勘違いします。その後、友達として好きなのだと聴いたハリソン。一転、マンディを拒絶するように。
ハリソンの両親が、妹の大学進学を契機に引っ越すことに。両親は、ロスに残すハリソンをマンディに託すつもりです。そのことを知ってハリソンは怒り狂いました。拠り所を失くしたハリソン。孤独感でいっぱいです。でも、マンディがそんなハリソンに寄り添います。
『思うままの世界』から得られる闘病のヒント
闘病のヒント ー 家族 ー
このドラマを見終わって最初に思ったのは、当事者に対する家族の関りの大切さです。家族が愛情込めて、話をよく聴いて、励ますこと。本人に寄り添いながら希望を一緒に模索していくことが大事なのだと。
スキルという面から考えると、丁寧に当事者の思いを傾聴することが大切です。家族なら自然にやれそうですが、距離があまりに近すぎて、簡単そうで簡単にはできないことかも知れません。でも、大事。
ヴァンは妹のヴァイオレットに、一生懸命関わろうとします。ですが、妹のことを心配しすぎるあまり、妹の本心を見失い、自分の考えを優先させることもしばしば…。あれしろ、これしろと。しかし、エピソードを重ねる内、ヴァンは妹の本当の願いに気づきます。衝突しながらも、妹の話をしっかり聴き続けた末のことでした。
闘病のヒント ー 友達・恋人 ー
重い病気を患ったとたんに、人との関りが途絶えてしまうことがあります。自分の弱った姿を人に見られたくないという思いから……私がそうでした。でも、それまで培ってきた人との関りは、発病後も繋いでいくことが大事です。
医師を初めとする援助者との出会いも、ひとつひとつ大切にしたいですね。人との関りをできるだけ絶やさず大切にすることは、何より闘病生活に潤いをもたらします。
ジャックは、父を失うかも知れないという辛い時に、看護師のエワトミと出会いました。エワトミは初め、看護師の職務としてジャックに対応しますが、何度か顔を合わせる内、ジャックの優しさに惹かれるように…。やがてジャックの良き理解者となって、互いに惹かれ合う仲に。
病気を抱えながらも、家族以外にも気持ちを通じ合える人がいる価値を、ジャックとエワトミの対話シーンから感じました。
闘病のヒント ー ピア ー
ピアとは、同じ病気や障害を持つ者どうしということ。同じ問題や課題を抱える者として、互いの思いや気持ちを理解し合え、互いに助け合える力を持つということ。
ジャック、ハリソン、ヴァイオレットの3人は、共同生活開始当初から、あまり良い仲とは言えませんでした。障害もあって、もともとコミュニケーションをとるのが苦手な者同士。3人はののしり合ったり、からかい合ったり。
3人は共同生活を共にする内、壁にぶつかり、涙を流し、傷つく互いの姿を見せあうことになります。こうした経過を辿ることで、3人は互いの理解が進み、慰めの言葉や相手を庇う言葉が、少しずつ交わされるようになっていきます。
エピソード8では、マンディや家族の力を借りながらも、辛い出来事を乗り越えた3人が、笑顔でピンポンを楽しむ場面で締めくくられます。とても印象的で象徴的なエンディングシーンでした。
闘病のヒント ー 導き手 ー
ドラマの中のコーチ役マンディのように、一緒に目標を探してくれ、ゴールに向けて行動をサポートしてくれる。また、辛い時には励ましてくれ、気持ちを丁寧に聴いてくれる人が身近にいてくれたら、病気と向き合う人にとってどんなに心強いでしょう。
病名を告知された時、検査結果が良くなかった時、胸にこもった感情を吐き出させてくれる人が欲しいものです。
ライフコーチのマンディは本音で彼らと向き合います。その上、自分の弱さを隠そうとしません。マンディのオープンな姿勢は、支援を受ける者や家族から厚い信頼を寄せられる所以です。
アドラー心理学で語られる、不完全である勇気、失敗する勇気、過ちを認める勇気。そうした勇気を3人が持てるように、マンディは彼らを援助しているようにも受け取れます。これら勇気をもって歩き出していくその先で、ジャクソン、ハリソン、ヴァイオレットは何を見つけるのでしょうか?シーズン2が楽しみです!
まとめ
いかがでしたでしょう、『思うままの世界』。涙あり、笑いあり、ドタバタあり、ジ~ンと心にしみいる場面もあって、すなおに楽しめるドラマでした。
自閉症の方が心に持っている課題は、健常者も大なり小なり抱えている課題でもあります。ただそれを日常、抑え込んでいるに過ぎないような…。だからこそ、彼らのストレートな発言やありのままの感情表現、世間的常識を超えた振る舞いが、見るものの心に響き渡ります。
最後までお読みくださり、
ありがとうございました。