闘病映画から得られるヒント ― 映画『10デイズ 愛おしき日々』 病気とうまく付き合い続けるには ―
こんにちは、ジョニージョニーです。今回も闘病映画から得られるヒントを探ります。選んだ映画は『10デイズ 愛おしき日々』。
この映画から得たヒントを、先にひとつだけお伝えします。それは ” 出会った人たちを大切にする ” ということ。病気とうまく、長~く付き合うためには、とても大事なことだと、この映画は教えてくれます。
主人公のダンは、22年もの間、エイズと共に暮らしてきました。ある日、薬局でいつもの治療薬を購入しようと、保険カードを薬剤師に渡します。ところが、カードのIDが無効で大切な薬を入手できない事態に。
この映画は、エイズを患うダンとダンを見守る人たちの日常を描いた、ほのぼのエピソード集なのです。悲壮感あふれる物語ではありません。
それでは。
目次
闘病映画『10デイズ 愛おしき日々』 主な登場人物
主人公 ダン (ジェームズ・ロディ)
ダンは22年間エイズと暮らしてきました。ある日、保険のIDが失効。薬が手に入らない事態にダンは焦ります。自分がエイズであることをオープンにできないダン。同居人のポーラや、ダンが働くクラブのマスター・ボブとその妻ドット。彼らとの関りがダンをこの世界に繋ぎとめています。
同居人 ポーラ (ロビン・ワイガート)
今は亡きダンの恋人の妹。その繋がりからダンとポーラは住居をシェア。しかし、恋人に発展する様子はありません。ふたりの関係を見ていると、ポーラはダンの姉のようでもあり、母のようでもあり…。心の強い結びつきがあることだけは確か。
クラブのマスター ボブ (ダニー・グローヴァー)
あまり役に立ちそうにないダンを雇い、クラブのなんでも屋としてダンに居場所を与えているボブ。互いに気心が知れ、言葉のやり取りも親子のよう。ダンを優しく見守ります。
ボブの妻 ドット (カンディ・アレクサンダー)
劇中、ダンとの会話シーンは控えめ。夫婦げんかでボブを家から追い出したあと「本当は心から愛している。でも憎たらしくなるの」とポーラに本音をポロリ。ダンは、このふたりを仲直りさせようと、あれこれ策を巡らします。その甲斐あってか、終盤にはボブとの仲が急展開。
闘病映画『10デイズ 愛おしき日々』 あらすじ
2016年製作/110分/13+/アメリカ
サンフランシスコに住む作家志望のダンは、エイズを22年間患っています。未だエイズであることをオープンにできません。デートをすることにもためらいを感じています。
ある朝、誕生日プレゼントを送ったと、ダンの母親から電話が入ります。すでに受け取っていた手紙には100ドルの小切手。ダンは感謝し、すぐにATMで預金しました。
でもそれがケチのつき初め。エイズ治療薬を求めて薬局に行くと、保険のIDが失効しているのです。大事な薬が手に入らず、ダンは焦ります。
一方、クラブのマスター・ボブは、スナック菓子が原因で妻のドットと大げんか。ボブは家から追い出されてしまい、クラブの事務室で寝ることに。そこにダンが来て「僕の家へ泊まれよ」とボブを誘いました。
レストランでダンはポーラに、亡き恋人ケヴィン(ポーラの兄)が夢に出てきて楽しく話せたと。するとポーラは「あなたには病気の話ができる相手が必要なの、病気のことをオープンにしてみたらどう?」と。ダンは断りました。
家を追い出されたボブはダンの家へ。ボブとダンとポーラ、3人がソファに並んで腰かけ、仲良くテレビを見るさまはまるで家族のようです。
ダンは保険のことで、管理事務所を訪ねます。担当者によると、100ドルを銀行に預金したことが原因で、保険のIDが失効したとのこと。当分は現状のままだと聞いて、ダンは落胆します。
ダンは、自分が死んだ後、人に僕を思い出させる何かが必要だと考えます。ダンはリサイクルショップで白いサルの縫いぐるみを見つけると、すぐさま購入。それをポーラにプレゼントしました。
ポーラの仕事はエステティシャン。その店にボブの奥さんドットが来ます。カラダをほぐしてもらいながらポツリと「私はボブをすごく愛しているの、心から。でも、時々どうしようもなく憎くなるの」と。ポーラがひと言「それが普通でしょ」。
ダンは夜道で通り魔に襲われ、その顛末をポーラに話しました。するとポーラは、「自分の身は自分で守らなくては」と護身術教室に通い始めました。
ダンは気晴らしにひとりで遊園地へ。汽車の乗り物を楽しんでいると、不思議な少女に話しかけられます「怖がらないで、何れ人は皆死ぬ」。ダンは思わず汽車から飛び降りました。
夜の公園。ダンは病院で会った男性と再会しました。あの意中の男性です。ポーラや通り魔のこと、お互いエイズ患者であることを話すうちに意気投合します。エイズ患者歴2年であることをマイクは伝えますが、ダンは年数を伝えられません。
後日、ダンはマイクの家へ。会話が弾んだところで、意を決したダン。自分の感染期間が22年であることをマイクに伝えました。
ダンはニューヨークでのエピソードをマイクに披露します。ダンが知人と話していると、ふいに背中へ十字をなぞられます。振り返ると見知らぬ男が「お前の話している男はエイズ。これは警告だ」と。それ以来、自分の話す相手の後ろにもその男がいるようで、今でも怖いとダンは言います。
ダンにマイクからの電話です。交際はできないと。ダンの長い感染期間がその理由でした。ダンはショックを受け、ふさぎ込んでしまいました。そこに母からの電話「そういう時、あなたにはコーヒーが必要なの」。ダンはさっそくコーヒーを飲み干し、気を取り直します。
ダンは薬の飲み忘れ防止のため、腕時計にアラーム設定しています。ある時、アラーム音が鳴って、いつも通り薬を飲みました。テレビを見ながらウトウトしていると、アラームが鳴ったので薬を飲みました。けど実際には、さっき薬を飲んだばかりです。
アラームの故障でした。薬を二倍飲んだことに気づいてダンは慌てますが、もうどうしようもありません。ハンマーで22年間使い続けた腕時計を叩き壊しました。
翌朝、ダンは突然激しい痛みに襲われます。ポーラが車を激走させてダンを病院へと。仲たがい中のボブとドットも駆けつけました。誰もがエイズの悪化だろうと。
幸いにも、結石による痛みであると分かり、みんなひと安心です。この騒ぎをきっかけにボブとドットは仲直り。病床のダンもうれしそう。
ダンが眠りにつくと、あの不思議な少女が夢に現れて「恐れるべきものは、恐れそのもの」と。
退院後、ダンが夜道を歩いていると、女装したオカマがうずくまっていました。足を挫いてしまったようです。ダンはオカマを担いでなんとか病院まで運びます。実はこのオカマはダンから保険の相談を受けたケースワーカーでした。後日、このケースワーカーの配慮から、保険のIDは回復します。
ポーラがダンに腕時計をプレゼント。壊した時計は、ダンがエイズ治療薬を始めた時に買ったものでした。薬の時間にアラームが鳴るたび、いつもビクついていたとダンは言います。ポーラのあげた腕時計には、もうアラーム機能はありません。ダンはこの腕時計を気に入りました。
ボブのクラブで、ダンがポーラに言います「僕は自分と向き合うことにしたよ。自分をだましながらやっていくよ。もう、考えても仕方ないことで自分を傷つけない」と。そう話すダンをポーラは笑顔で見守ります。
ダンはクラブのステージに立って、自作の詩を朗読しました。以下、ダンの詩です。
エイズ!
僕はなぜ君をそんなに怒らせてしまったのか。
僕と君は、友人になれると思うんだ。
甘い考えかもしれない。
僕のカラダの中を駆けまわる君は、
まるで子猫のようだ。
僕は猫アレルギーなんだけど、
猫はまぬけで憎めない、かわいい動物だ。
ひっかいたり、おしっこしたり。
ひどく愛おしい。
エイズ!
僕は君に居場所を与えている。
毎晩一緒に寝ているのに、僕を殺そうとするなんて、
あんまりじゃないか。
人生をともに過ごして行くんだから、
君も努力すべきだ、そうだろう?
ともに生きる道を探そう。
君が僕を殺すつもりなら、僕はこう決意する。
憎たらしい、血も涙もないクソ野郎め。
僕はお前と心中してやるからな。
最後のシーンでは、ダン、人形を抱いたポーラ、熱々なボブ夫妻が、仲良くソファに腰かけてテレビを見ています。ボブ夫妻のケンカの元となったスナック菓子。それをみんなでおいしそうに食べながら……その姿はまるで家族のようです。
映画『10デイズ 愛おしき日々』の予告編動画です。
映画『10デイズ 愛おしき日々』から得られる闘病のヒント
ヒント① 見守っていてくれる人たち
ダンの病気そのものは落ち着いていて、日常生活は一見、とても穏やかそう。ところが、本人の内面をのぞいてみると、小さな浮き沈みがたくさんあり、心の水面にはいつもさざ波が立っているよう。
エイズ患者であることをオープンにできないこと。亡くなった恋人への想い。エイズが悪化しないかという不安。毎日欠かさず飲まなくてはいけない薬のこと。パートナーを切に求めているが、うまくいかないこと。こうした不安が、ダンの内面で渦巻いています。
ダンが住むサンフランシスコの社会環境も、ダンを悩ませまる要因です。ポーラに乾電池を投げつけた女。不愛想なウエイトレス。夜道でダンを襲った通り魔。薬を奪った理不尽な規則。不思議な少女の言葉など。
こうしたストレスフルな状況にあってもダンが暮らしていけるのは、ダンを見守ってくれる人々の存在があるからこそです。ダンと一緒にテレビを見たり、食事をしたり、互いを心配し合ったりと、ダンの日常を育んでくれる人たちがダンに生きる心地よさを与えてくれています。そのまったりした日常こそがダンの心のエネルギー源なのです。
もちろん、ただ甘えるだけでなく、お互いに相手を思いやる気持ちが、人と人との関わり合いの潤滑油となります。また、言いたいことは言い合えることも大事でしょう。お互いの深いところで信頼し合っているなら、ボブとドットのように再び繋がり合えます。
ヒント② 居場所
ボブがオーナーのクラブ・ドット。このクラブこそが、ダンの大切な居場所なのです。この場所こそが、ダンを人や社会と繋げています。たぶん、収入面でも大事な場所でしょう。
本当は作家になりたいダン。でもそれは夢であり、実現するとしても当分先の話。当面はこのクラブが、ダンにとって人生のステージなのです。用心棒としての痛みを伴う経験、ダンの発案した『ポエトリー・スラム(詩の朗読会)』、ポーラやボブとの本音トークなど。闘病中だからこそ、こうした居場所、貴重な実践経験を積み重ねられる場が必要なのです。
「薬の得られない10日間」から得られた気づきを、クラブで朗読した詩の中で、ダンは皆に披露していました。
” 僕は自分と向き合うことにしたよ。自分をだましながらやっていくよ。もう、考えても仕方ないことで、自分を傷つけない ”
ヒント③ 映画の中の公的支援
カリフォルニア州の福祉制度に詳しくないのですが、ダンが受けている薬代への補助がかなり効いてます。ダンは収入が少ないので、補助金の額が余計に高いのかもしれませんが。
映画のように、ちょっとした行き違いから、援助が打ち切られたり、補助の額を減らされたりすることは、日本の闘病患者さんや障害者さんにとっても、けっこうあるあるな事かもしれません。
また、支援制度があるのにも関わらず、知らなかったばかりにずっと損していたなんてことも。日本の福祉制度は、基本的に申請主義なので、お役所の方がわざわざ使ってくださいとは言ってくれません。ダンのようにならないよう、自分が使っている制度についての確かな知識を得ておきたいところです。
まとめ
いかがでしたでしょう、『10デイズ 愛おしき日々』。長期療養患者の穏やかな日常を主に描いていることもあって、ちょっと退屈だったかも知れません。でもそれゆえ、私たちの闘病風景と重ね合わせて観ることもできたように感じます。
以前紹介した『ドント・ウォーリー』や『潜水服は蝶の夢を見る』との共通点を私は見つけました。それは、闘病する人を取り囲む人たちとの関りの重要性です。そこの関係性をいかにうまく作っていけるかが、長く闘病していく時の大事なポイントだと、今回の映画を観て再確認できました。
最後までご覧くださり、ありがとうございました。